「まてーっ」「まて、と言われて待つはずないのよおん」「言ってみたかっただけよっ」「あら、じゃあ待つのやめるよおん。せっかく待ってあげようかなー、と思ったのに」「えっ冗談でしょ」「もちろん冗談よおん。ははははは」
こんなやりとりを続けながらの追跡。飛行艇のスピードが意外に遅いとはいっても、アズマ記者のスタミナは驚異的です。「あの燃料が無くなるまで、くらいついてやるー」
しかし、道が狭くなり、木で視界がさえぎられ、時々見失うようになってきました。エンジン音は全くしない不思議な飛行艇なので、会話をして位置を確認し続ける必要があります。
「コブタくんたちをどうするつもりー」「丸焼きにして食べるんだよおん」「ひどいー」「冗談が通じない人だよおん。風船を食べるわけないでしょおん」

アズマ記者の太ももが限界を感じだしたとき、パラパラと青い粒々が落ちてきました。飛行艇のスピードが落ち、高度が下がっています。「直射日光は嫌いだよおん」みるみるうちにヒビが入り、崩れはじめました。「えーっ、もしかして泥の船？」「ばれましたよおん」もう飛行艇は高度を失い、地面すれすれを走っています。いや、走っているのは泥の水博士。下から出した足がパタパタ。ふたりの距離はみるみる縮まっていきます。そしてとうとう「つかまえたーっ」と、アズマ記者が青い泥の飛行艇をつかんだ。はずだったのに彼女は空がグルリと回転するのを不思議な思いで見ていました。気がつくとマウンテンバイクが倒れています。自分は黄色い道の真ん中で座り込んでいました。黄色いレンガの道？魔法使いが出てくるお話みたい。懐かしいような甘い香りにしばらくぼーっとしてしまいました。そうだっ、泥の水博士を追いかけていたんだ、と立ち上がった瞬間、足下がすべって体が大きく回転しました。「ふふふ、キミはもう動けませんよ」顔の異常に長い、というか顔が体の黄色い怪人が笑っています。そしてアズマ記者は気がつきました。黄色いレンガのように見えたのは全てバナナの皮だということを。
「ボクの名前はバナーナ。でもみんなはワルワルイエローとよんでいます。おとなしく帰ってください。」子どものようなかん高い声です。「私はアズマ。コブタをさらった泥の水博士を追いかけているの。邪魔しないで」「この道を通すわけにはいきません」たしかに立ち上がることすらできないアズマ記者はすべるだけで前に進めません。泥の水博士の笑い声はどんどん遠くに小さくなっていきます。