どっ、と皆が笑いました。おいおい、変装してこの中にいるんじゃないか？そう言うおまえが怪しい。ばれたか。ははは。誰も本気にしません。それには理由があります。コブタ君たちのいたずら好きは世界中で有名になっていたのです。発端は近所の保育園児たち。風船博士とヨシオ君はコブタたちを徹底的に研究するつもりでしたが、コブタは遊び好きで食いしん坊でワガママ。いつの間にか研究所の外に逃げ出して、保育園児たちとかけずりまわる毎日。なんせコブタの体は風船です。ふうーっ、と息を吐き続けるとその分だけ体を小さくすることが出来るんです。小さく小さくなって簡単に脱走。そして、はじめのうちは園の中で子どもらしい遊びをしていたのですが、蓮（はす）組の男の子と仲良くなってからは行動範囲が妙に広くなり、いたずらの内容も高度なものになりました。それを可能にしたのはコブタたちのオナラです。九官鳥やオウムが人の声をまねるように、コブタのオナラは人の臭いをまねることができるのです。見た目は完璧に風船のブタなのに、臭いでだまされてしまいます。愉快だったのは人気アイドル、パラパラ娘のまねをしてテレビ出演したときです。テレビ局の人達は全員だまされているのに、視聴者は当然臭いを感じないので大騒ぎ。風船のコブタたちが歌って踊ってセクシーポーズですよ。ほかにも変装（といっても見た目は変わってないのですが）して引き起こした騒ぎは数え切れません。ですから、青くなっているヨシオ君はかわいそうに、「きみ、ひょっとしてコブタくんじゃないの？」と問いつめられる始末です。

「どういうことでしょうか」女性の鋭い声が響きました。「あ、わたくし正美（せいび）新聞のアズマといいます。誘拐ということは脅迫状の類が？」真剣なまなざしで見つめられてヨシオ君の顔は青から赤へ、「はい、これです」。アズマ記者はその紙を受け取ると読み上げました。「コブタはアタシが、、、、預かったよおん。ぜったい返さないよおん。ワルワル団総帥、ピチャ-ル・泥の水」おおっ、会場は騒然としました。あの、悪の秘密結社ワルワル団が、凶悪な泥の水博士が、何のために。「これはコブタくんたちのいたずらではないんですね」アズマ記者が確認しました。「はい、コブタたちはいたずらっ子ですが実はかなりの知能を持っており、こんなふうに字を間違えることはありません。」「やっぱり、私も変だと思ってました。預かるという字が頂上の頂になってますもんね。」

そのとき、「はははははは」窓の外から不敵な笑い声が。青い飛行艇が遠ざかっていきます。泥の水博士の顔がちらっと見えました。うしろには大きな風呂敷包み、きっとコブタたちがあの中に。「追跡しますっ」アズマ記者が窓から飛び降りました。そこにはピンクのマウンテンバイク、２１段変速、正美新聞公用車。皆があっけにとられている間に青い飛行艇もピンクの自転車も小さくなっていきます。猛烈な勢いでペダルをこぐアズマ記者。風船博士がポツリとつぶやきました「いい太ももじゃ」。